交際の「別れ」に、法律上の手続きはありません
結婚や離婚には、役所への届出といった公的な手続きが伴います。始まりも終わりも、公的な記録として残るわけです。しかし、驚かれるかもしれませんが、交際関係には、そうした法律上の仕組みがありません。「付き合おう」も「別れよう」も、法律が特定の形式を要求する行為ではないのです。
このことは、二つの側面を持っていると、私は感じます。
一つは、別れるのに相手の同意や正当な理由、特別な手続きは要らないということ。たとえ相手が「別れたくない」と主張しても、交際を続ける法的な義務はないとされています。これは、個人の自由な意思が尊重されるべきだという考え方から来るのかもしれませんね。
そしてもう一つは、その裏返しです。「連絡が途絶えたから、その時点で法律上の別れが成立した」と扱う規定も存在しないということ。「〇カ月連絡がなければ自然消滅」といった期間の基準は、あくまで一般的な感覚であり、法律が定めたものではないのです。
つまり、「音信不通で別れたことになるか」という問いに、法律が一律の答えを用意しているわけではないのですね。実務で問題になるのは、関係が終わったかどうかで結論が変わる何かが残っているかどうか、という点が大きいようです。
「別れたかどうか」で変わるもの・変わらないもの
連絡が途絶えても、その影響を受けずに残る義務や責任があります。例えば、次のようなケースです。
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貸したお金や立て替えたお金の返還義務
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妊娠している場合の認知や養育費の問題
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借りたまま、あるいは預けたままになっている物
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相手の行為が犯罪にあたる場合の刑事責任
一方で、関係の性質や終わり方によって、評価が変わる可能性のある場面も存在します。
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婚約していた場合の責任
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内縁(事実婚)だった場合の解消の責任
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相手が既婚者だった場合の関係の評価
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別の相手と交際することが「裏切り」と評価されるか
場面別の具体的な考え方
婚約していた場合
婚約は、将来結婚するという合意であり、指輪の購入や結納といった形式は必ずしも必要ではありません。もし婚約が成立していた場合、正当な理由なく一方的に破棄すると、慰謝料の問題が生じることがあります。もし連絡を絶たれた側から見れば、長期間連絡が取れず話し合いにも応じないという状況は、こちらから関係を解消しても不当な破棄とは評価されにくい方向へ働くでしょう。逆に、ご自身から連絡を絶って婚約を解消した場合、正当な理由がないと評価されるおそれがあるため、式場や新居の費用など、実費の清算が問題になる可能性も考えられます。
同棲・内縁だった場合
単なる同棲と内縁は同じではありません。内縁と評価されるには、婚姻に準ずる共同生活の実体が必要です。内縁関係を一方的に解消した場合、慰謝料の問題が生じる可能性があります。また、住まいの問題はこれとは別です。名義人でない側を実力で追い出したり、残された荷物を勝手に処分したりすることは認められません。賃貸借契約の名義や連帯保証、公共料金の契約も、連絡が途絶えただけでは消滅しないことを心に留めておく必要がありますね。
相手が既婚者だった場合
もし相手が既婚者であることを隠して交際していたのであれば、貞操権の侵害として相手本人に請求できる余地があります。しかし、反対に、ご自身が相手の配偶者から慰謝料を請求される立場になることもあります。この場合、「いつ関係が終わったか」は、慰謝料の金額などを評価する上で影響しうる事情となるでしょう。
妊娠しているとき
関係の終わり方は、父子関係に影響しません。婚姻していない場合、法律上の父子関係は認知によって生じ、養育費はそこが入口となります。相手が応じない、あるいは連絡が取れないという場合には、家庭裁判所の認知調停や認知の訴えといった手続きを検討することになります。たとえ当事者間で「認知しない」と約束したとしても、子の側の請求権が失われるわけではないのです。
お金や物のやり取りがあるとき
貸したお金の返還義務は、交際が終わったかどうかとは関係なく残ります。ただし、渡したものが贈与なのか貸付なのかは、当事者の呼び方ではなく、その実態と証拠によって判断されます。デート代やプレゼントは贈与と評価されることが多く、連絡が取れなくなったからといって、当然に返還を求められるものではない、という点は意外に思われるかもしれませんね。
音信不通のまま、別の人と交際してよいか
婚姻していない交際関係に、法律上の貞操義務があるわけではありません。そのため、後から「浮気だ」と言われても、慰謝料が認められるのは限られた場面です。しかし、婚約や内縁と評価される関係であれば、話は別です。あいまいなまま関係を重ねるよりは、一度、関係に区切りを伝えておく方が、後の争いを避けやすいのではないでしょうか。
連絡が途絶えた側にできること
まず安否を考える
連絡が取れなくなると、まず相手の安否が気になりますよね。事故や急病、事件に巻き込まれている可能性も考慮に入れるべきです。警察への行方不明者届は、同居人や社会生活において密接な関係を有する者が出せるとされています。同居していない交際相手の場合、受理されないケースもあるようですが、事件性がうかがわれる場合は、警察相談専用電話(#9110)に相談してみるのが良いでしょう。
自分の側で区切りをつける
返事がなくても、ご自身の意思は一度、記録に残る形で伝えておくことが考えられます。関係を終わりにすること、今後連絡しないこと、貸したお金があればいつまでに返してほしいことなど。これは、後日「別れたつもりはなかった」と言われた際の手がかりになりますし、復縁を迫られた場合には、拒絶の意思を示した記録としても意味を持ちます。何度も送るのではなく、一度、簡潔に伝えるのが基本です。
所在が分からない相手に請求したいとき
弁護士が事件を受任した場合、弁護士会照会によって契約者情報などの照会を求められることがあります。しかし、必ず回答が得られるとは限りませんし、調査だけを単独で依頼することは基本的にできないようです。所在が判明しない場合でも、付郵便送達や公示送達といった方法で手続きを進める余地はありますが、ハードルは高く、判決を得られたとしても実際に回収できるかは別の問題となることを理解しておく必要がありますね。
避けたい対応
感情的になってしまう気持ちも理解できますが、次のような行為は、新たな法的問題を引き起こす可能性がありますので、避けるべきです。
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SNSや共通の知人への暴露:内容が真実であっても名誉毀損やプライバシー侵害の問題が生じえます。
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職場や実家への繰り返しの連絡・訪問:ストーカー規制法の対象になりうる行為です。「相手が音信不通にしたのが悪い」という事情も、該当性を左右するものではありません。
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相手のSNSやメールアカウントへの無断ログイン:不正アクセス禁止法の問題になります。
連絡を絶つ側が意識しておきたいこと
フェードアウトそのものを禁じる法律はありません。身の危険を感じる相手と距離を取るための沈黙が責められるものでもないでしょう。その上で、次の点は意識しておく価値があるのではないでしょうか。
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相手が「まだ終わっていない」と考えていれば、連絡や訪問が続きやすくなります。安全上の問題がなければ、一度は明確に意思を伝え、その記録を残しておくことを検討してみてください。
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借りている物、同棲していた住居の名義や連帯保証、共同の契約は、連絡を絶っても自動的には解消されません。
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妊娠、金銭、婚約に関する問題は、音信不通にしても残るという事実を忘れないでください。
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もし相手からの言動に危険を感じる場合は、無理に会おうとせず、警察や弁護士を窓口にすることを真剣に検討していただきたいと私は思います。
よくある疑問
ここでは、皆さんが抱きがちな疑問について、Q&A形式でまとめてみました。
Q:何か月連絡がなければ、法律上「別れた」ことになりますか。
A:期間の基準はありません。争いになった場面ごとに、やり取りの内容や当事者の言動から判断されることになります。
Q:音信不通にされたこと自体で慰謝料を請求できますか。
A:交際関係の解消それ自体を理由とする慰謝料は、原則として認められにくいと考えられています。婚約や内縁だった場合、妊娠を告げた後の一方的な対応、暴力や暴露といった別の事情があるときは、評価が変わりうるでしょう。
Q:「別れるとは言っていない」と復縁を迫られています。
A:交際を続ける義務はありません。拒絶の意思を一度伝え、それでも続く場合には、ストーカー規制法に基づく警告や禁止命令、民事上の対応を検討することになります。
Q:本人ではなく相手の親から連絡が来ました。
A:成人同士のトラブルについて、親であるというだけで当然に交渉権限が生じるわけではありません。本人から連絡するよう伝えるのが原則的な対応となるでしょう。
まとめ
今回のコラムで、皆さんは「自然消滅」という言葉の裏に潜む、いくつかの法的側面についてご理解いただけたのではないでしょうか。改めて要点をまとめますと、以下のようになります。
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交際の開始・終了に法律上の形式はなく、音信不通を「別れの成立」と扱う規定もない
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「〇カ月で自然消滅」という法的基準は存在しない
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貸金、妊娠と認知、預けた物、刑事責任は、連絡が途絶えても残る
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婚約・内縁だった場合は、解消の仕方が責任の評価に影響しうる
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相手を追う行為も、連絡を絶つ行為も、行き過ぎると別の法的問題を生む
連絡が取れないまま時間だけが過ぎると、金銭の回収や妊娠への対応など、期限のある問題ほど動きにくくなる傾向があります。もし、ご自身の状況で整理すべきことが残っていると感じたら、早い段階で弁護士に相談し、事実関係と手元の記録を確認しておくことを強くおすすめいたします。専門家の助言は、きっと皆さんの心の平穏を取り戻す一助となるはずです。
このコラムは、若井 亮弁護士(弁護士法人若井綜合法律事務所 代表弁護士)の監修のもと作成いたしました。若井弁護士は、男女問題・男女トラブルに強く、不倫慰謝料、妊娠トラブル、婚約破棄、パパ活トラブル、ストーカー被害など、他人に相談しづらい問題を穏便かつ内密に解決することを得意とされています。
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全国どこからでも利用できる無料相談を、メール・電話・LINEで24時間受け付けているとのことです。一人で抱え込まず、まずは相談してみる勇気が、解決への第一歩となるかもしれませんね。
それでは、また次のコラムでお会いしましょう。賢作でした。


