「もらいうつ」とはどのような現象なのでしょうか?
「もらいうつ」という言葉を初めて耳にする方もいらっしゃるかもしれませんね。本書では、「健康な人が、うつ病の人と時間や場所を共有したことでうつ病になってしまうこと」と定義されています。もちろん、うつ病は風邪のように医学的に感染するものではありません。
しかし、産後うつになった奥様を支えるご主人、うつ病の親を支え続けたお子さん、あるいは休職した同僚の業務を引き継いだ方など、心の距離が近い人の苦しみに深く寄り添い続けることで、支える側まで心身の不調を抱えてしまうケースが少なくないというのです。これは、私たちが持つ共感性や責任感の強さが、裏目に出てしまうこともある、ということなのでしょう。
見過ごされがちな「支える側」の疲弊
うつ病と診断された方には、適切な治療や休養、そして周囲からの配慮が与えられます。しかし、その方を「支える側」に回った方々はどうでしょうか。診断を受けているわけでもなく、休養を取ることも難しい。家族であれば「支えるのは当然」と思い込み、職場であれば「自分が代わりにやるしかない」と抱え込んでしまう。そうして、不調が表面化しないまま、静かに消耗していく「見えない層」が存在すると本書は指摘しています。
私自身も、誰かを助けたいという気持ちが強い方ほど、自分のことは後回しにしてしまいがちだと感じることがあります。しかし、支える側が倒れてしまっては、元も子もありませんよね。この書籍は、そうした見過ごされがちな人々に光を当て、自分を守ることの重要性を教えてくれます。
鍵は「近づきすぎず、離れすぎず」
では、どうすれば自分自身を守りながら、大切な人を支え続けることができるのでしょうか。本書のカバーには「寄り添うけれど、寄り添いすぎない 自分までうつにならない生き方」というメッセージが掲げられています。この言葉は、非常に示唆に富んでいると感じます。
うつ病の原因は一つに決めつけられるものではなく、家庭、職場、人間関係、本人の気質など、様々な要因が複雑に絡み合って発症すると言われています。そのため、「犯人探し」をするのではなく、その人を取り巻く状況全体を理解することが回復への第一歩になると本書は説いています。また、寄り添い疲れから生じる「共感疲労」や、寄り添っていた人がいつの間にか相手を責める側に回ってしまう心理なども、心理学・精神医学の視点からひも解かれています。
精神科医が挙げる「もらいうつ」予防の4つの対策
本書の第Ⅵ章では、「もらいうつ」を防ぐための具体的な日常対策が4つに整理されています。どれも特別な道具や費用を必要とせず、今日からでも始められるものばかりです。ぜひ、ご自身の生活に取り入れられるものがないか、一緒に見ていきましょう。
1. 自分の特性を理解しておく
ご自身の性格やストレスの感じ方、物事の見方の癖を知っておくことは、非常に重要です。「無理をしがち」「睡眠不足でイライラしやすい」といった、ご自身特有の不調のサインに早く気づけるようになります。完璧主義の方、過度な心配性な方、何にでも白黒をつけたい方は、特に注意が必要かもしれませんね。
2. セロトニンの分泌を促す生活習慣を心がける
散歩やストレッチなどの軽い運動と日光浴は、心の健康に良い影響を与えます。入浴も有効ですが、38〜40度のぬるめの湯に浸かるのがおすすめです。熱すぎる湯は交感神経を優位にし、かえって心身の緊張を招くことがあるそうです。また、カフェインとアルコールの摂りすぎは、セロトニンの生成を妨げる可能性があるため、適量を心がけたいものです。
3. ストレスをマネジメントする
ストレスへの対処法は多岐にわたります。
-
睡眠をしっかりとり、体を休める
-
感情を書き出して整理する
-
気分転換をして感情をリセットする
-
自分の気持ちを信頼できる人に話す
-
同じような経験を持つ人たちと支え合うピアサポートを利用する
-
「〜しすぎ」といった極端な行動に注意する
もし、眠れない状態が続くようでしたら、迷わず精神科や心療内科を受診することを著者はすすめています。専門家の力を借りることも、大切なセルフケアの一つです。
4. 積極的に摂りたい食べ物
食生活も心の健康に大きく関わってきます。
-
オメガ3脂肪酸が豊富なサバ、イワシ、サンマなどの青魚
-
トリプトファンを含む納豆や豆腐などの大豆製品
-
ヨーグルトやチーズなどの乳製品
-
ビタミンB群を含む卵や肉類
バナナはトリプトファンとビタミンB6の両方を含むため、特におすすめだそうです。一方で、甘いものの過剰摂取は血糖値の急変動を招き、イライラや気分の落ち込みにつながりやすいとされています。特定の食品だけを食べれば予防できるというわけではありませんが、朝食をしっかり摂るなど、規則正しい食生活を心がけることが何よりも重要だと本書は説いています。
職場の事例から学ぶ「もらいうつ」の連鎖
本書には、会社で一人の社員がうつ病で休職した際、その業務を引き継いだ別の社員までがうつ病になってしまったという事例が紹介されています。限られた時間内で高い完成度を求められる職場環境の中で、責任感が強く、最後まで自分の力で何とかしようとする人ほど、無理を重ねてしまう傾向があるのではないでしょうか。このような「もらいうつ」の連鎖は、企業経営にとっても大きな課題となり得ます。
支える人が心の健康を保つことは、ご自身の健康のためだけではありません。結果として、支えられている本人の回復にも良い影響を与えることにつながるでしょう。
もし、今回ご紹介した内容に少しでも心当たりがある、あるいは大切な人を支える中でご自身の心の健康が気になっている、という方がいらっしゃいましたら、ぜひ本書を手に取ってみてはいかがでしょうか。きっと、新たな気づきや、心を軽くするヒントが見つかるはずです。

書籍情報
-
書名: 『もらいうつ』
-
著者: 髙橋一志
-
発売日: 2026年9月1日
-
出版社: 方丈社
-
定価: 1,650円(税込)
-
仕様: 四六判並製・200頁
-
ISBN: 978-4-910818-44-3
関連リンク
-
Amazon: https://amzn.asia/d/0ezR8F7W
最後までお読みいただき、ありがとうございます。賢作でした。


